夏の原風景?
ツバメは日本人にとって馴染み深い鳥類である。
穀類には手を出さず害虫を食べてくれる益鳥として古来より大切に扱われてきた歴史があるが、それは人間が暮らす場所に営巣する習性と無関係ではないだろう。ツバメが人間の暮らす場所に営巣するのは、カラスなどの外敵から巣を守るためと考えられているそうである。外敵を避けるため、あえて人間と近い場所を選択したのは彼らの生存戦略と考えれば、我々人間と馴染み深くなるのは当然の結果といえる。なるほど(個人的に)昭和の時代には、消防署や警察署の車庫、町の商店の軒先などで時折ツバメの巣を見かけたものである。益鳥としての側面と、人が集まる『縁起の良い鳥』というように捉えられ、彼らの生存戦略は我々人間と共存し繁栄の象徴となった。
ツバメはれっきとした渡り鳥であるが、馴染み深いという意味で渡り鳥の代表格である。夏鳥には違いないのだが、3月頃東南アジアより日本各地に飛来することから『燕』は春の季語。4~6月に繁殖し雛を育てることから、『燕の子』や『燕の巣』は夏の季語である。そして9~10月頃に再び東南アジアへ戻っていく。だから『燕帰る』は秋の季語。冬の季語はないようだが、代わりに『越冬つばめ』というタイトルのヒット曲が頭に浮かぶ。要するに1年を通してそれだけ身近な鳥だ、ということの証左であろう。だが、ツバメの巣など今ではあまり見かけなくなった。環境省や各自治体の調査によれば、その内容は諸々あるのだが共通してツバメの生息数が減少していることに触れられており、『あまり見かけなくなった』ことは間違いではなさそうである。
そんな身近なツバメが弊社事務所近隣に巣を作り、どうやら抱卵を始めたのが今年4月半ばだったろうか。親鳥とみられるツバメが忙しなくエサを探して飛び回り、巣へ運ぶ姿をよく見かけるようになったのは5月に入ってからか。ツバメが雛のために捕食するのは飛んでいる双翅目類(蚊、ハエ、アブなど)が大半で、その他に蛾、蝶、トンボなどである。(ミミズのようなワーム系ではない)飛んでいる蚊やハエなどを捕食するほど飛翔能力は優れているわけで、飛び回って急旋回するツバメを相手に剣を振り、かの剣豪・佐々木小次郎は必殺『ツバメ返し』を習得したとされる。余談だが。
ツバメのヒナは3~4週間ほどで親鳥と同じくらいに成長、飛べるようになるそうである。雨の日も風の日も、そして酷暑の日もエサを探し続けた親鳥のひたむきな姿とすくすくと成長する雛たちの姿は、僕らにどこか郷愁の念を抱かせていたのです。わざわざ巣の様子を見に行ったことも一度や二度ではなかったですよね。ただ見守るだけですが。
小さかった雛たちが親鳥の庇護のもとに成長、巣から顔を出して並んでいる姿は実に微笑ましく、近い将来の巣立ちを予感させるものでした。果たして雛たちは、つい3日ほど前に巣立っていったのです。5匹の雛たちが無事に巣立ったことは喜ばしいことではありましたが・・・空き家となった巣を見ると、少し寂しくなったことも間違いありません。
ちなみに。
中華料理などで高級食材として扱われるツバメの巣。これは日本には生息しないアナツバメ類が放棄した後の巣を採取し食材としたものである。アナツバメは雛が巣立つと同じ巣を利用することはなく、また空中生活に特化し繁殖期以外に地表に降りることはほとんどない(!!)ため、巣はほぼ唾液腺の分泌物を固めて作られているのである。僕らが見守っていたツバメの巣は地表で集めた泥や枯草を固めて作っているため食用には向きません。当然ですが。余談です。
ちなみに。
アナツバメ類はもともと海岸近くの断崖絶壁などに営巣する習性がありますが、時に近代的な建物の壁を本来の営巣環境と見立てて巣作りを行うことが見受けられる。そのため、東南アジア諸国では鉄筋コンクリート造の建造物の窓を開放し、洞窟などの環境に似た空間を与え集団営巣地を人工的に作らせることにより、高級食材の供給量を増やすことに成功したらしい。すごい発想ですね。余談ですが。
さてツバメのオスかメス、親鳥のどちらかが同じ巣に戻ってくる確率は1割~2割というデータがあるそうだ。
またツバメの子育てを見守る日がくることを願ってやみません。